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SIDE.5『通過』 列車と逆の方向へ歩いていった人がいない しかも、だれひとり帰ってこない
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この作品は他の作品と同じく、谷山浩子のテキストを元にして、本書(「輪舞−ロンド・完全復刻版」)のために描き下ろして頂いたもので、本邦初公開です。他の作品と比べて、分量が格段に多く、複雑な構成になっています。
注目すべきは、他の作品と異なって、主人公が、谷山浩子と思われる女性になっている事です。テキストを視覚化するにあたって、吾妻ひでおは、主人公が谷山浩子自身であると解釈したものと思われます。内容的にも、夢としての性格が濃厚な物語であると言えるでしょう。
人の一生は、誕生から死に至るまで、多くの節目から構成されています。このような節目に伴う儀式は、通過儀礼と呼ばれたりもしますね。本作品の表題の「通過」が、通過儀礼に相当するものであれば、人生を列車に投影するのは極めて自然であると言えるのではないでしょうか? 同様な例は、他にもあり、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」などはひとつの典型と言えます。
主人公は「通過」していく人々を見送るだけで、最後はひとり取り残されて、虚無感に苛まれますが、最後に自分の正体に思い至った時の、穏やかな表情が印象的でした。
運動というものは相対的なものであり、人々の「通過」を見送る事そのものが、彼女(彼)にとっての通過儀礼であったのかもしれません。
| (文中の敬称は省略させて頂きました)
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